角層のいろは:フケその1からの続きです
乾性フケ
乾性フケは、皮膚のバリア機能が乾燥などにより弱まることから始まります。
皮膚の乾燥は水分保持機能といって、角層がどれくらいの水分を掴んでいられるか
という能力の差で左右されます。
水分保持機能を悪化させる要因には主に
「身の回りの環境や自分の行動による乾燥」「紫外線」「ストレス」「加齢」
などがあります。
ア.身の回りの環境や自分の行動による乾燥
- 界面活性剤による洗浄(シャンプーなど)は角層の脂質を脱脂し、水によるNMF(天然保湿因子:細胞内で水分を繋ぎ止めておくアミノ酸などの保湿成分の総称)の流出も起こすため乾燥を悪化させます。熱いお湯や長時間の入浴も脂質やNMFの流出を増加させます。
- 外気の湿気に左右されるため、低湿乾燥の冬季は多くの人に角層水分量の低下が見られます。特に最近の住宅は気密性が高いため、そこでの暖房使用は低湿化と角層水分量の減少を一層進めます。
- 夏の炎天下のもとからクーラーの効いた部屋への移動のような、劇的に多湿から低湿に変化するような環境にさらされ続けると、NMFの素になるフィラグリンという物質が作られづらくなるため、水分保持機能の弱い角層が作られます。
イ.紫外線
角質のすき間は細胞間脂質という脂質が埋めていますが、この角質(タンパク質)と細胞間脂質(脂質)は、細胞間脂質の主成分である結合型セラミドにより強力に繋がれています。紫外線はタンパク質と脂質の接着を進めるトランスグルタミナーゼ1という酵素を低下させ結合型セラミドを減少させます。これが紫外線により皮膚のバリア機能が低下する要因と言われています。
ウ.ストレス
現代人とは切っても切れないストレスですが、ストレスの負荷が高まったり続い
たりすると、皮膚にも影響が出ます。
- セラミダーゼというセラミドを分解する酵素の働きが増し、セラミドが減少する
- PCAという細胞中で外部から入ってきた水分を繋ぎ止めておく保湿成分が減少する
- 脂質を作る能力が低下する
このような現象が報告されていて、皮膚のバリア機能が低下し、また回復力も低下します。
エ.加齢
高齢者ではセラミダーゼの働きが増すことによるセラミドの減少、NMFの減少が起き角層の水分量が低下し乾燥します。
ただ、新陳代謝が遅くなり角質を剥がす酵素の働きが低下するため、角質が剥がれづらく角層が厚くなります。そのためバリア機能は増しますが、体内からの水分が表層まで届きづらくなるため乾燥が進み、深いひび割れなどを起こしやすくなります。
経緯
乾燥フケが発生するまでの大まかな経緯です。
上に書かれたような要因により、敏感肌などの人はもとより、健常な人でも季節や置かれた状況により一時的にドライスキンを起こすことは日常的に起こります。
ドライスキンであっても炎症がなければ皮膚の水分の喪失量はそれほど多くはありません。肌が若干カサついたり、たまに多少カユイかなと思ったりする程度です。
ただ、皮膚のバリア機能は低下しているため外部からの物質は角層の奥深くに侵入しやすくなっています。そこに更なる刺激が重なると容易にバリア機能が破綻して皮膚の炎症を起こします。
この時の更なる刺激とは、上記のア~エの要因の他に化粧品や、シャンプーなどを含むヘアケア・スキンケア製品などに含まれる化学物質が原因の場合も少なくありません。ふだん正常な時に調子よく使用できていた化粧品・ケア製品であってもドライスキンの状態に使用すると、その中に含まれる物質の一部が刺激になっていることも多くあります。日常的に問題なく使用していたために気づくのが遅くなり刺激を与え続けてしまいます。
ドライスキン上の皮膚ではカユミを感じることがしばしばありますが、これは乾燥やバリア機能の弱体化で皮膚の過敏性が高まり、角層内のカユミを感知する神経線維が、植物が枝を伸ばすように表層側に伸びてくるため、より些細な刺激でもカユミを感じるようになります。なのでいったん掻き始めるとさらに角層を傷つける
↓
刺激物やアレルゲンが侵入しやすくなり炎症を起こす
↓
よりバリア機能が破綻する
↓
さらにカユミが増して掻くようになる
という悪循環になり、炎症もそのたび毎に悪化していきます。
皮膚は炎症が起きると表皮細胞ごと、侵入した異物(体にとっての毒物や微生物)を排出しようとします。
そのために表皮内では細胞成長因子(ホルモンなどの一種)の分泌が盛んになり、ターンオーバーのスピードが速まります。結果、細胞もどんどん増殖されます。
※ターンオーバー:表皮内で細胞が生まれ→角質に成長し→剥がれ落ちるまでのサイクルのことを言います。健常な20代で約4週間前後と言われ、一般的に年齢が増すとターンオーバーのサイクルも長くなります。
ターンオーバーが速まり、短時間で作られた角質は分化が十分に進まないため、成熟できない未熟なままの角質が大量に作られます。
大量に作られた未熟な角質は頭皮上に厚く積み上がります。
未熟な角質では
- 角質の強度が極めて弱い
- 水分を保持する能力が低い
- 微生物などが繁殖しづらい弱酸性の環境を保てず、中性~アルカリ性に傾く
など、通常の角質と比べるととても機能が劣ります。
ア. 強度の弱い角質の堆積では、角質と角質の繋がりもとても弱く、剥がれ落ちやすい状態にあります。
イ.通常、健康な角層では角質と角質はとても強力に接着されています。この接
着をタンパク分解酵素が溶かし角質は1枚ずつ脱落するのですが、この酵素
は水分が不足すると働きづらくなります。
ウ.タンパク分解酵素には酸性とアルカリ性それぞれで働くものがあります。
角層のpH(ペーハー)は中性から表面に向かって徐々に弱酸性に変化していくので、その場所ごとの角層のpHに合わせた酵素が働き徐々に剥離が進みます。
しかし、頭皮のpHが中性~アルカリ性に傾くことにより、タンパク分解酵素の働きが不安定になります。
5のような状態では水分不足やpHの変化など、剥がれやすい条件と剥がれづらくなる条件とが入り交じることでタンパク分解酵素の働きが乱れます。
もともと繋がりの脆い状態で積み重なっていた角質は、その乱れたタンパク分解酵素の作用のせいで不規則かつ連続的に塊となって剥がれ落ちます。
この頭皮から、塊として剥がれ落ちた角質がフケとなります。
以上がフケが発生する主な経緯ではありますが、乾燥や脂漏が進んでいるからといってすべての人にフケが発生するわけではないので、まだ発生のメカニズムがすべて確立しているわけではないようです。
また、日常的に起こるようなフケだと思っていても実は何らかの疾患だったり、最初は軽度のフケでも放置している間に頭皮環境が悪化して疾患に至ることもあるため、病院で見てもらうことも含めて早めにケアを行うことが必要です。